糸婁 糸侖 (北越雪譜)
2018-02-14


北越雪譜初編 巻之中
   越後湯沢 鈴木 牧之 編撰
   江  戸 京山人百樹 刪定

 ○糸婁●(いとによる)

 糸に作るにも座を定め体(たい)を囲位(かたむ)る事績(うむ)におなじ。縷●(いとによる)その道具その手術(てわざ)その次第の順、その名に呼物(よぶもの)許多種々(いろ/\さま/”\)あり、繁細(はんさい)の事を詳(つまびらか)にせんはくだ/\しければ言(いは)ず。そも/\うみはじむるよりおりをはるまでの手作(てわざ)すべて雪中に在(あり)、上品に用ふる処の毛よりも細き糸を綴兆舒疾(しゞめたりのべたり)してあつかふ事雪中に籠り居(を)る天然の湿気(しめりけ)を得ざれば為し難し。湿気(しめりけ)を失へば糸折(をれ)る事あり。をれしところ力よわり断(きれ)る事あり。是故(このゆゑ)に上品の糸をあつかふ所は強き火気を近付(ちかづけ)ず。時により織るに後(おくれ)て二月の半(なかば)にいたり暖気を得て雪中の湿気(しつき)薄き時は、大なる鉢(はち)やうの物に雪を盛(もり)て機(はた)の前に置(おき)、その湿気(しつき)をかりて織る事もあり。これらの事に付(つき)て熟思(つら/\おもふ)に、絹(きぬ)を織(おる)には蚕(かひこ)の糸ゆゑ陽熱を好(このみ)、布(ぬの)を織には麻の糸ゆゑ陰冷(いんれい)を好む。さて絹は寒に用ひて温(あたゝか)ならしめ、布は暑(しよ)に用て冷(ひやゝ)かならしむ。是(こ)は天然に陰陽の気運に属(しよく)する所ならんか。件(くだん)の如く雪中に糸となし、雪中に織(お)り、雪水に洒(そゝ)ぎ、雪上に●(さら)す。雪ありて縮あり。されば越後縮は雪と人と気力相半(あひなかば)して名産の名あり。魚沼郡(うをぬまこほり)の雪は縮の親といふべし。蓋(けだ)し薄雪(はくせつ)の地に布(ぬの)の名産あるよしは糸の作りによる事也。越後縮に比べて知るべし。
「校註 北越雪譜」野島出版より(P.63〜64)

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 ○糸婁 糸侖(いとによる)

|| 糸に作るにも座を定め体(たい)を囲位(かたむ)る事績(うむ)におなじ。縷●(いとによる)その道具その手術(てわざ)その次第の順、その名に呼物(よぶもの)許多種々(いろ/\さま/”\)あり、繁細(はんさい)の事を詳(つまびらか)にせんはくだ/\しければ言(いは)ず。

 〈糸に仕上げる〉
■ 糸に仕上げる(糸縒り、いとより)場所も決まっていて、姿勢を正してすることは績む作業と同じく言うまでもありません。
糸縒りの道具やその仕方や順序など、それらの道具や作業工程の名前(呼び方)は色々様々にあります。
とてもこまごまするので、ここで書いてもくだくだしくて煩わしいので省略します。

※“糸婁”“糸侖”でそれぞれ一文字。
※(本書説明文より抜粋)
【いとより】苧桶にたぐりこんだ糸を、手代木(てしろぎ)で紡錘(つむ)をすって回転させ、これによって縷(より)をかける工程。

||そも/\うみはじむるよりおりをはるまでの手作(てわざ)すべて雪中に在(あり)、上品に用ふる処の毛よりも細き糸を綴兆舒疾(しゞめたりのべたり)してあつかふ事雪中に籠り居(を)る天然の湿気(しめりけ)を得ざれば為し難し。


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